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第十二章.〜圧勝の三回戦〜
3回戦の相手はすでに舞台に上がっていた。全身鎧――フルプレートに身を包んだ身の丈1.5メートル程の相手である。すでに抜き身のバトルアックスを肩に背負いヤル気は満々のようだ。だが――殺る気…もといヤル気ならツトムの方も満々だった。この戦いさえ乗り切れば、決勝は棄権しても問題ないのだ!!
――と、本人が勝手に思い込んでいるためである…いと哀れなり。
「待たせたなぁ。」
腰に挿した拳銃を引き抜き、構える。その目は獲物を前にした獣の目であった。
鉄仮面の為に表情は伺えないが対戦相手が半歩ほど後ずさる。
「ほほう、なかなかいい目をしておる。だが、ワシには勝てぬぞ。お主の今までの戦いは見ていたが――。」
「うっせー!!ゴタクいいからかかってこいや!レフェリー!始めろ!」
全身鎧の言葉を遮り、レフェリーに試合開始を促す。全身鎧が、ガタガタと震えているのは、無視された怒りからか、それとも今までに無いツトムのヤル気に怯えているせいだろうか…?
開始の合図をするために、レフェリーが慌てて両者の中央に移動した。
「ではこれより、準決勝2回戦、リルド対ツトム・・・開始!!」
合図とともにレフェリーが舞台から逃げ出すように飛び降りた。
「ふ、ふん。どんなにいきがっていようが、貴様には勝ち目は無いのだ!!」
全身鎧――リルドが、バトルアックスをツトムに向け言い放つ。ツトムは左手に銃を持ったまま、だらりとぶら下げていた。冷たく言い返す。
「その根拠は?」
「ワシは1回戦から貴様の戦いを見ていたのだ。貴様の装備がその妙な礫を飛ばす武器だけだと確信した。そして、威力もわかった!その程度の威力でこのフルプレートの前には通じぬわ!!」
(確かに分が悪いわよね。あの鎧はアダマンタイトみたいだし、勝てるのかしら?)
シャルがハンバーガーを食べつつ他人事のように分析している。
アダマンタイトという鉱物は物理的ダメージに非常に強く柔軟であり、いかな手段でも打ち砕く事は不可能といわれている。しかし魔力に対する抵抗力は弱く、脆い面も持ち合わせている。対極的な鉱物としてミスリルが挙げられる。
そういえば、前回の戦いではミスリルでできた同じようなフルプレートを装備していたのを思い出した。
「ふ〜ん、で?」
空いてる右手で頬を掻きつつ続きを促す。
どうせ勝つのは自分なのだから言いたい事は言わせてやろう。
「さらに貴様は今までの試合で真言を唱えておらぬ、そこでワシは考えた!!貴様は唱えないのではなく、唱えられないのだ!!どうだ、当たっておろう!?」
(要するに銃弾をかわせないから、弾き返そうって話だろうが…コイツ、装備だけだ勝ち上がってきたのかよ。はぁ、一撃で終わらせるか…。)
実際に、フルプレートを装備しながらバトルアックスを振り回す筋力を考えると、そういうわけではないのだが、ツトムにはリルドが薄っぺらい相手に見えた。デュードとは比べるべくも無い。
「じゃ、試させてもらおうっかな。」
銃を戻し、コンバットナイフを引き抜く。刀身40センチ程のものだが、もちろんただのナイフではない。その様子を見てリルドが先程と比較にならない声量で笑った。
「ぶわーーっはははは!!お主、気でも触れたか!?そのようにちんけな刃物で何ができる。見て解らぬのか?物理攻撃には無敵なアダマンタイトであるぞ、貴様の攻撃など通じぬわ。まったく無知な輩は。」
「うっせーな。今からその鎧がどのくらい丈夫かテストしてやるよ。待ってろよ。汝、我が分身にして、我が一部なり。我は汝の名をここに呼ぶ。汝の喰らいしその力、ここに来たれ、汝の名はアトワンスなり」
(何を使うんだろ?わざわざアトワンスに頼むだなんて。)
ツトムが装備している短剣は魔剣の類ではあるが、少しばかり趣が違った。火を噴くとか、切られた相手が凍るとか、そのように単純なものではない。色々な武器に変化する事までは解っていたがそれだけではなかった。つい最近解ったことなのだが、意思を持つ魔剣であるアレは食べるのだ。他の武器を。
言葉が終わるとともにナイフに変化が生じる。黄金色に輝き質量を増大させていく。実際にかかった時間は1秒も無かったが、観客もリルドもその光景に息を飲んだ。光が収まったとき、ナイフは――2メートル程もある鈍い灰色の輝きを持った4連装のロケットランチャーになっていた。
そして、食べた武器に変化する。アトワンスはそういう魔剣であった。
(なるほどねぇ。鎧は破壊できないけど、中の人は衝撃でどうにかなっちゃうわね。)
ポテトフライを摘まみ、口に放り入れる。
「おっさん。そこを動くなよぉ〜。今から試してやるからな。」
肩に担ぎ上げかまえる。狙いを定められてリルドが面白いように慌てた。
「なにぃ!?真言か?真言なのか?そのような術は見たことも聞いたことも無い。ちょ、ちょっと待ちたまえ、話せば解る――。」
「物理攻撃には無敵なんだろ。鎧は・・・な?」
唇の端を吊り上げ、ニヤリと笑うと躊躇せずにトリガーを引く。
ボシュン!!
と以外に控えめな音を出してロケット弾が発射された。音速の3分の1の速度をもったそ
れを、15メートルしか離れていない目標にかわす術は無い。
ドーーーン!!!!!!
轟音、火炎、煙の順に着弾点から舞い上がる。悲鳴が聞こえた気もするが爆音が遮ったのか、まるで聞こえなかった。
「ゴホッゴホ…。」
本来数百メートルの距離で使う兵器を近距離でぶっ放したために、煙をかぶってしまった。気管に吸い込み、咽てしまう。観客席に被害は無かった。真言によって観客席に防護フィールドが張られているからだ。その事実を知らなければ、こんな凶悪な兵器を使う気に離れない。が、閃光や煙は遮れないらしく、『見えない』『煙たい』等の苦情が上がっていた。
(ん〜、まさか死にはしないよな?火薬の量は減らしてあるんだろ?)
(もちろんや。そんなつまらないヘマはせんで〜まあ、内臓くらいはイッてるかもしれへんけどな。ま、生きてれば問題ないやろ)
(ツトムのバカー!私のポテトが、埃だらけじゃないの!!)
文句を言おうと身を乗り出したシャルだが、だんだんと煙が晴れていくと言葉を失った。
着弾点――リルドが立っていたからだ。蒼銀だった塗装は所々剥げてしまっていた。原色である茶褐色が見え隠れしている。
オーーーー!!
と、観客席から歓声が揚がる。数瞬してからギギギッとリルドは動き始めた。鎧はまだプスプスと焦げたりしているのだが…
「き、きっさま〜驚かせやがって!!」
アックスを振り回し猛然と抗議するその姿は元気そのものだ。ダメージはないらしい。
(おいおい、なんで無事なんだよ。・・・尋常じゃねぇな。腐ってもSクラスか?)
(ドワーフやからなぁ。火薬増やしたほうが、えかったんちゃうか?)
それでも厚さ4メートルのコンクリートを吹き飛ばすくらいの威力はあったはずである。
実際にリルドを避けて放射線状に舞台が壊れているのだから。
「聞いておるのか!貴様?」
(いっその事、対戦車用の弾使って、もう一発かますか。)
(いや、せめて炸薬弾程度にしとき〜な。)
(でも、弾がもったいないしな…。)
「ふははは!さては最強の攻撃が防がれて声も出ないのだな。そうであろう?棄権するなら今のうちだぞ。無駄な怪我をすることもあるまい?」
ビシっと擬音が付く位の勢いで指差すと、物騒な相談をしていたツトムがようやく気がついた。
「あ、悪ぃ。全然聞いてなかった。なに?」
「ええい、もう良いわ!今度はこちらから参るぞ」
両手でアックスを持ち悠々と近づいてくる。最早ツトムに有効な攻撃手段が残されているとは思っていないのだろう。相手の間合いにはまだ余裕がある。
(どのくらいの威力が要ると思う?)
(なにがや?)
(あいつの急所にぶち込むとして、気絶させるのに必要な威力)
(そやな、ガバメントでええんやないか?わいが手ごろな威力のに変化しよか?)
(ナイフに戻ってろ。もう終わらすから)
ロケットランチャーからナイフに戻るのは一瞬だった。鞘に収めて、替わりに銃を抜く。
(呆れたタフさね。ツトムってば、あんな小銃でどうするつもりかしら?)
ヂュー。埃のせいで、いがらっぽくなった喉をオレンジジュースが潤す。
「ふん!無駄である。その武器が先の武器より威力がないのは承知している。」
リルドは歩みを止めない。ツトムは何も言わずに構えた。両者の距離は3メートルもない。
「そういう風によ・・・武器の力だけで勝ってると思われると癪に障るんだよ!」
ガーン!
銃声は一発だった。たったの一発で何ができよう?観客もリルドもシャルですら、同じことを思っていたであろう。
ガシャーン!!
と、ロケット弾ですらビクともしなかったリルドが前のめりに倒れる。レフェリーが呆然としていたが、ツトムが視線で促すと確認に向かった。鉄仮面をはずすと弾丸が転がり落ちた。眉間の辺りに赤黒い跡が残っている。どうやら、鉄化面の隙間――装備者が周囲を見るためのスリットを狙って眉間に撃ち込んだらしい。恐ろしいほど正確な射撃である。急所は鍛えられないから急所という。そこに攻撃を喰らえばどうなるか。リルドは完全に気を失っていた。レフェリーが両手をクロスさせる。
「リルドが試合続行不可能なため、勝者ツトム!!」
歓声は一瞬遅れてやってきた。拍手と歓声が沸き起こる。
「ツトム〜!!」
今までと違い、シャルが大きな声で呼びかける。賞金を手に入れたことによってようやく労いの言葉がいただけるようだ。
「お疲れ様、これで決勝進出だね。」
「あ、ああ。」
そばまで駆け寄ってきて、満面の笑みで話し掛けてきた。
「でもな、決勝は――。」
辞退するから――と口にする間もなく、すっかり上機嫌のシャルがまくしたててくる。
「ねぇねぇ!さっき知ったんだけど、優勝すると優先的に皇女様に謁見できるんだって。優勝者を労うためにわざわざ闘技場に来てるらしいの。これはもう優勝しなきゃだめだよね〜?」
「い、いや。決勝はその、できれば…。」
興奮している彼女をなだめるために一拍の間を置く。いや、もしかしたらそれは自分のためにかも知れなかったが。
「できれば?」
「辞退しようと思うんだけど。」
一呼吸の間――。
「ええ!?何考えてるのよ。そんなこと許すわけ無いでしょう。怪我したならともかく、あんたは無傷でここまで勝ちあがってるんだからね!」
「ここまで無傷でも決勝で死ぬかもしれないじゃんか!!お前も見ただろ?デュードの鬼のような強さ。俺ははっきり言って勝てる自身がねぇよ。」
(というか、死ぬ。確実に!)
「何言ってるのよ!決勝まで残る事ってすっごく名誉な事なのよ。あんた、臆病者扱いされてもいいわけ?」
「いいわけないだろっ!でもよ――。」
「いい?これはチャンスなのよ。賞金も貰えるし、皇女様には会える。これからの旅に必要な要素が2つも同時に手が届くところにあるのに!!」
「死ぬくらいだったら臆病者の方がマシだ。死んだら何もかも終わるんだぜ?旅も、この世界も、そしてイヴの行方もだ!それに皇女様の方は順番待ちしてりゃあ、必ずお目にかかれるだろうがっ!」
「あのねぇ、今までの戦いを皇女様が見てたらどうするのよ?実際謁見できたときに『あら、あなた確か決勝でバックレた方ですわね』なんて言われて見なさい、居たたまれないわよ。」
(皇女様は『バックレた』なんて、言わないと思うが…。)
「そ・れ・に、決勝は辞退なんてできないわよ。そういう風に大会規約で決まってるんだから、賞金だけ貰って無傷で逃げ出そうなんて虫が良すぎるのよ。ほら。」
言って丸めたパンフレットを叩きつける。
「なんだと!?本当なのか?」
それを上から順に読む。と、その記述は確かにあった。目を擦っても、パンフレットを擦っても絶望的なその言葉は消しようが無かった。そう、『決勝戦は棄権できません』という記述は。
「こうなったら・・・逃げるか!それしかない!!明日のために。」
ドガッ!!
駆け出そうとして振り向いた瞬間、その一歩目の足元に矢が刺さる!!そして、周囲の気温が下がった・・・気がした。背中と額に激しく冷や汗が流れるのを、ツトムは確かに感じた。
(寒気をおぼえるのに何故汗が止まらないんだろう。)
「どこに行こうってのかしら?ツトム様。」
その声は普段より太く。強張っていた。恐らく怒りをこらえながら声を絞り出しているせいだろう。
「そっちは控え室じゃないわよね?とすると、どこに向かわれるのかしら。」
「き、決まってる。逃げるんだよ。この闘技場から。」
シャルの全身の動きに注意を払いながら後ずさる。なるべく目を見ないようにしながら。
その手には弓が握られている、特に弦を絞って構えているわけではないが、ツトムはその腕前をここまでの旅路で イヤッ! というほど知っている。その腕前は彼の銃の腕前にも匹敵することを。 頬を伝う汗がポタリ――と流れ落ちた頃、ふとシャルの全身から力が抜けた。そして短いため息を一つ。
「あんた、その程度の男だったの。」
グサッ!!
「な、なんだよ。悪いかよ?」
自尊心が有る者なら、男を自負するものなら誰もが言われたくない言葉が胸に刺さる。
「だいたい、イヴ様だって臆病者に迎えにきて欲しいとは思わないわ。私でも、お母様でもそう思うでしょうね。それに、この程度でビビってるくせに世界を救う?笑わせないでよ。ちょっとは頼れるところ見せてごらんなさいよ!」
ピシャッ!!!
高速の平手がツトムの頬で弾けるような音をたてた。かわそうと思えばかわせたのだろうが、ツトムは敢えて受けた。シャルが泣いていたからだ。
「シャル・・・。」
「あんたなんか…あんたなんか現れなければよかったのよ!もういいわよ。辞退したいならすれば?もうあんたには何も期待しないから!!それから私の前に二度とその顔を見せないでよね。」
言い捨てて走り出すシャル。ツトムが止めようと伸ばした手は肩口を掠めるだけだった。
(俺は・・・。)
そして、その場に佇むツトム達を見ている一つの影に気づいた者は誰も居なかった。その場面を見て殺意を燃え上がらせている事も。
「デュシャルムを泣かせるとは万死に値する。必ず殺す。その体灰と化すまで燃焼し尽くしてやる!!」
決勝進出者に与えられる控え室に、ツトムは一人居た。準決勝までは大部屋の控え室だったのだが、決勝まで進出した者同士を同じ部屋で待たせるわけにもいかず、一人一部屋を与えられているのである。ツトムはベンチに座り、自問自答していた。
(俺はどうするべきなのか?出場すべきなのか。死ぬために?)
全身を脱力させ、目は虚ろである。誰が見てもこれから決勝に挑む者には見えない。
(何悩んどんのや、出場すればええやんか。)
(お前か…。だって、勝てないだろ?アレには。)
(寝言言ってるんやないで?あの程度の輩におんどれが負けるわけ無いやないか。)
(それこそ寝言だ。前の対戦相手見ただろう?消し炭一歩手前だったじゃないか。)
思い出して再びため息をつく。死にはしなかったものの、対戦相手は再起不能に追い込まれるような火傷を負っている。担架で運ばれていった姿を自分に照らし合わせるとゾッとする。いや、理由はわからないがデュードはツトムに対して明確に『殺す』と言っていた。担架で運ばれる程度の怪我なら恩の字かもしれない。
(そりゃ魔力の勝負で負けたからや。理力と魔力は次元が違うんやで。おんどれの潜在能力はその気になればこの大陸だって吹っ飛ばせるんや!)
(その潜在能力とやらが都合よく試合中に発揮できるのかよ?発揮する前に終わったらどうしてくれる。)
(はぁ〜、新しいマスターはこの程度の男やったんやな。)
この程度 の部分を強調して言う。先程のシャルとのやり取りを見ていたらしい。もちろんツトムの自尊心に結構なダメージを与えた。
(ぐっ!人の気も知らないで…。)
(あったり前や!あの程度のちんけな魔力にビビッてるんやないで!?言っとくけどな、おんどれの今の理力でもあいつの魔力程度なら焦げ一つ負わん。これは保障できるでぇ。)
ガバッ!
と、今までの脱力状態が嘘のように立ち上がる。
「マジっ!?」
(ほんまやで〜わいはマスターに対して嘘をつけるようには創られてないさかいな。)
「・・・そうだな。お前、口は悪いが嘘は言わないよな。・・・よっしゃ!あのガキぃ。目にモノ見せてやる!!」
言うなり、バッグ(これも米軍の倉庫から持ってきたもの)をひっくり返して何かを探し始める。そして、ごそごそと取り出したのはゲイリースーツだった。その深緑のコンバットスーツは至る所に武器を収納できるつくりになっている。裏地には耐刃素材と防弾性のポリマーが使われていてグルカナイフや9ミリ弾程度なら余裕で受け止められる代物だ。もちろん耐火、耐寒にも優れている下士官程度には支給されない程のものだった。発見してから一度しか袖を通してない。ツトムの宝物だった。
「ふっふっふ・・・やってやる。ぜって〜に優勝してシャルを見返してやる!待ってろよデュード!泣かしてやるからな〜。」
(魔力関係はともかく、物理攻撃は防げんことは黙っとくか・・・。)
心の奥底で聞こえないように呟いたアトワンスの声は嬉々として銃の整備をはじめたツトムには聞こえなかった・・・。
..........to be continued...........
パルミティア 第十二章.〜圧勝の三回戦〜
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