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第十一章.〜苦戦の二回戦〜
「おっそいなぁ、まだかよ…。」
二回戦の呼び出しを受けてすでに10分待っているのだが、対戦相手が一向に現れない。
いいかげん、ぼやきとあくびの1つも出た時、入場門から人影が走り出てきた。
「お待たせ致しました。申し訳ありません。」
深々と頭を下げ現れたのはエルフ族の女性だった。
エルフ族は元来人に近い姿をしている。そのためポリモリフを用いる事は少ない。また、狩人を生業にしている事が多いので弓が得意であり、魔力も侮れないものがある。
「一回戦、拝見させていただきました。…面白い武器をお持ちですね」
とにっこり笑うと、握手を求めてくる。
(俺の早撃ちが見えたのか!?)
と、内心穏やかではなかったが、穏やかに握手を交わした。
「俺も見ましたよ。凄い真言でしたね。」
そう、彼女は一回戦を真言術の一撃で終わらせているのだ。その威力はシャルを唸らせるほどだった。
「あら、ありがとうございます。では、お互いに良い試合を行いましょうね」
そう言うと、開始位置に戻っていった。
「では、ツトム対ミランダ・・・試合開始!」
レフェリーの声でお互いに距離を取る。両者の得物は長距離攻撃系。接近してもお互いにメリットは無い。離れてそれから二人は動かなくなった。
(ち、隙がねぇ…真言を唱える暇は与えちゃいけねぇし、しかも弓の腕もかなりのもんなんだろうな。)
対峙した状態で長距離攻撃するとき、第一に考えなければいけないのは相手の攻撃をはずす事である。相手に先に撃たせて、かわし、反撃する。一流の戦いはそれがセオリーである。今、二人はフェイントの掛け合いをしていた。互いの一挙一動に緊張感がみなぎる。ヒートアップしている観客すら声を漏らす事を恐れているのか、静まり返っている。
(流石ですわね。真言を唱えようと集中する度に殺気が威嚇してくる・・・一回戦の勝利は武器の性能だけではないようですわね。これでは真言は無理かしら。)
二人の額を汗が伝う。そして、一滴の汗が落ちた。
ガーン!ガーン!
二発の銃声…が、両者はその場に立っている。
(え!?ツトムが狙いを外した?)
シャルが慌てて身を乗り出す。目を凝らすと、二人のちょうど中間の位置に半分に折れた矢と、黒い弾丸が見えた。
「・・・素晴らしいですわ。私の放った矢を打ち落とすだなんて。」
「それは光栄だね。ご褒美に、撃った直後に真言を発動させようなんて物騒なマネはしないで欲しいな」
そう、彼女は弓を牽制に使い真言を唱えていた。ツトムがかわしざまに彼女を狙っていれば、何らかの術が彼を襲ったのだ。
真言とはその力を借りる聖獣に願いを唱え(低レベルの真言なら聖獣の名だけを呼び)、さらに行使する力を明確に言葉にしたとき発動される。ちなみに、行使する力を言葉にしない限り術は発動しない。その間収束された聖獣の力は魔力の障壁となって術者を守るのである。
シャルから説明されていたツトムはそのタイムラグを読み、かわすのではなく1発目で矢を撃ち落とし、2発目で彼女を狙うことにより術の発動を防いだ・・・実にハイレベルな攻防戦が展開されていた。
「嫌ですわ。そうでもしないと貴方には勝てる気がしませんもの。」
言って再び弓を構える。ツトムも銃を懐にしまわず、右手に持ったまま構える。再び静寂の時間が訪れた。
(とんでもねぇ!?いくら威力を落としてるからって、弓で弾丸と同じ威力だと!?)
(あの武器の威力は今ので知れましたわ。もう少しこちらの威力を上げれば、あの礫は弾き飛ばせますわね。)
(そうなんだよな。弓って弦の絞り具合でまだ威力が上がるもんな。それに魔力障壁が厄介だな。こいつの威力で貫通する程度なら良いけど・・・それなら。)
(相手の礫を弾き飛ばし、体制を崩したところで術の一撃を・・・これできまりですわ。万が一直接狙われても、あの程度の威力なら障壁で防げる!!)
決意の表情を見せ、弓を引く!矢が放たれ――
ガーン!ガーン!・・ガーン!
三発の銃声が終わり、片膝をついたのは…ミランダだった。
(え、勝ったの?)
何が起きたのか理解できずに呆然とするシャル。
両手に銃を構えたままツトムが近寄り、言う。
「まだ、続けるかい?」
ミランダは顔を上げず、首を横に振る。レフェリーが確認し。
「勝者、ツトム!!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!
勝者が宣言される。同じに大歓声が、拍手が沸き起こる。とりあえず観客に手を振ると、ミランダに近寄り彼女を立ちあがらせた。
「ずるいですわ。2つも持っているなんて、聞いておりませんもの。」
「言ってないからな。」
苦笑いで答える。
そう、あの瞬間――彼女が放った矢を左手の銃で撃ち落とし、その弾丸はそのまま彼女に向かった。障壁があるにもかかわらず、驚いた彼女は弾丸をかわし態勢を崩した。
その隙を狙い、右手の銃で撃ったのだ。しかも、左手に持った銃はご丁寧に威力が違うもの。だからこそ、彼女の弓勢を相殺できたのだが。
「優しいのですね。どうなさったかは解りませんが、私は傷ついていませんもの。」
「そりゃそうさ、あんたは少しばかり平衡感覚を失っているだけだからな。もうすぐ元に戻るよ。どうやったのかは・・・内緒だ。」
ツトムは弾丸を直接彼女には撃ち込んでいない。弾丸というのは音速で飛んでいく。音速を越えた物質は周囲に衝撃波が発生させる。俗にソニックブームと呼ばれるものである。耳を狙い、発生した衝撃波で三半規管を揺らし、立っていられなくしたのだ。
「完敗です。次の対戦も頑張って下さいね。応援してますわ。」
ちゅっ
(んなっ!)
頬に軽く口付けると彼女は去ってしまった。やれやれと舞台から降りると、またもやシャルから『こっちに来い』というジェスチャー。仕方なくそちらによる。
「なんか用か。」
「今のどうやったの?」
(んだよ〜『おめでとう』くらい言えないのかよ。ったく!)
「内緒だ。・・・ちょっと野暮用があるから行くわ。」
「ちょ、ちょっとぉ!」
後でシャルが呼びとめるが、無視して控え室に向かって歩き始めた。
控え室に続く廊下。勝者であるツトムが不機嫌な顔で歩いていた。立ち止まると壁に体を預け腰に差したコンバットナイフに手を当てると、心の中で語りかけた。相手は――。
(さっき手を出しただろう?)
(・・・何の事や?)
(とぼけるな!俺は弾丸にまとわりついた理力の欠片を見たぞ。お前がやったんだろ。)
(そないな事言われてもやな。あの一撃じゃ魔力障壁は貫けなかったで。)
(やっぱりか。余計なまねしやがって。)
(なんでや?勝ったやんか。)
(自分の力で勝った気がしねえからだ!)
(アホか。理力は元々自分の力やんか、それを使うて何が悪いんや。おんどれが理力の使い方解ってへんから、代わりにやってやったんやで。)
(俺は自分だけの力を試してみたかったんだよ!いいか、今度こんなマネしてみろ。その辺の武器屋に売り捨ててやるからな!)
(あんなぁ〜だから・・・。)
(シッ!ストップ…お客さんだ。)
近づいてきたのはデュードだった。どんな表情をしているのか窺い知る事はできないが、白いフードを目深にかぶった選手は他に見ていない。ツトムの前を素通りするかと思ったら立ち止まり、話し掛けてきた。
「勝ったようだな。ご苦労な事だ。」
「何か文句でもあるのか。」
「いや、できれば決勝まで来てくれ。そこで俺と当たる。そしてお前は死ぬ。」
要するに、死にたくなければどこかで負けろと言っているようなものである。さすがにカチンときたのか何か言い返そうと考え・・・何も思いつかなかったので疑問を尋ねる事にする。すでに相手は舞台に向かって歩き出しており、大きな声で呼びかけたかけた。
「シャルも殺すのか?」
ピクっと、あからさまに反応を示し立ち止まる。振りかえらずに一言。
「お前だけだ。」
そう言うと、舞台に向かってしまった。
(俺だけ?なんか、理不尽じゃないか。なんで俺が・・・。)
(単におんどれが気に入らないからやないか?)
(うるせぇ!あ〜なんだかむかついてきたぞ。おい、あいつと戦うときだけは許す!俺の理力を全開にしてくれ。)
(あのなぁ・・・それより、あいつの戦いを見なくてもええんか?)
(そうだな、見ておくか。)
控え室から闘技場に出ると戦いはすでに終っていた。ツトムの目に映ったものは、戦闘不能、さらには黒焦げという状態で、担架に乗せられて運ばれていく対戦者の痛々しい場面であった。
(おいおい、ちょっとシャレにならねぇんじゃないの?)
いまさら冷や汗が浮かぶ。次の戦いに勝てば、自分も同じ運命をたどるかもしれない。
(わざと負けようかな?)
などと考えていると、ふいに背後から声をかけられた。
「ツトム〜次に勝てば決勝よ。賞金が手に入るわよ!」
ニコニコと笑いながら駆け寄ってくる彼女に、少しばかり殺意を覚える。あのデュードという男は本気で自分を殺しにくるのに、なぜシャルは別なのだろうか?不条理だ・・・と、憮然とした心持ちでいると。
「な〜に難しい顔してんのよ。賞金が手に入るのよ?次にさえ勝てば!」
(そうだよな…元はといえば、金を使った俺が悪いんだもんな。そもそもこの大会は賞金目当てで来たんだし…って!?)
「賞金!?次に勝てばか?」
「はあ、大会要項見てないの?賞金は優勝者と、準優勝者に出るのよ。だから、次さえ勝てば金貨1000枚出るんだから。それともまさか棄権するとか言わないわよね!?」
やたら興奮した面持ちで一気にシャルがまくしたてる。金貨1000枚がどのような大金かは判らなかったが、少なくとも次に勝てば今夜の宿は確保できるらしい。その事は今まで沈んでいたツトムに火をつけた。
(しゃあ!これでシャルの機嫌は何とかなる!決勝はバックレちまっても問題ないだろう!そうだ、それに決めた!)
「な〜に言ってんだよ。任せろよ!サクっと倒して決勝は棄権だ!」
言うなり、舞台に向かって走り出した後で――
「棄権って・・・決勝は棄権できないんだけど?」
と、シャルが呟いた言葉は当然ツトムの耳には入ってはいなかった。
..........to be continued...........
パルミティア 第十一章.〜苦戦の二回戦〜
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