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第六章.〜金の針〜
「どうぞ〜。」
「失礼しまス。夕食の案内に来たス。」
そこにいたのは、まだ年端もいかない少年だった。だが体格は村にいる大人の様にガッチリとしている。おそらくこの種族特有の体つきなのだろう。
「あら、わざわざありがとう。今行くわ。」
「ちょっと待った!」
シャルの返事に一礼した少年が振り向いたときツトムが大声をあげた。
「びっくりした〜。なによ、そんなに大きな声を出して。」
シャルの言葉は無視して少年に近づくと少年の腰に手をやると それ を取り上げる。
そこには鈍く輝く一丁の銃があった。紛れも無く 現代 にしか存在時無いはずの・・・。
「坊主、これをどこで手に入れた!?」
ツトムの剣幕に少年が後ずさる。が、ツトムは構わず詰問を続けた。
「もう一度聞くぞ?これを、この銃をどこで手に入れたんだ!?」
少年は答えず、嫌々と言わんばかりに首を振る。ツトムの形相が怖かったのだろう。
「どこで――。」
ばかーん!!
「いいかげんにしなさいよ。この子が何をしたって言うの!?あんた初対面の子供をいじめるのが趣味なわけ?」
詰め寄るツトムをシャルがスリッパではたき倒す。威力スピード共に申し分無い威力だった。ツトムから守るように少年を抱き寄せる。
「って〜!!!何すんだよ!このドアホ!」
「それはこっちの台詞よ!何でこの子をいじめるのよ!?」
「はぁ?何言ってんだよ。俺が用があるのはそいつが持ってるその銃だ。」
ビシ!と、擬音が付きそうなくらいに銃を指差す。
「銃・・・?どっかで聞いたような。・・・こんなのただの子供のおもちゃでしょう?」
足元に転がっている おもちゃ を拾い上げる。この村に来る前ツトムが話していた武器のことをすっかり忘れているようだ。使用目的が解らないようだが、直感でグリップを握り、引き金に指をかけると銃口を覗きこんだ。
「ばか、やめろ!それに触るんじゃねえ、こっちによこせ!」
「はあ?あんた、こんな子供のおもちゃが欲しいの?変な趣味ねぇ。」
呆れた様に言うシャルの持つ銃は、いつのまにかその銃口をツトムに向けていた。と、ある事実が嫌でもツトムに伝わった。
(げ!?安全装置が外れてやがる!!まさか弾も入ってるんじゃないだろうな。)
背中に冷や汗を感じる。
「シャル、悪い事は言わない。それをこっちに渡すんだ。それは強力な武器なんだ。うかつに触ると危ない。」
「ぶきぃ〜?何言ってんのよ。こんな武器この世界じゃ見た事も聞いた事も――。」
ズキューーンンン!!
偶然にも引き金を引いたのか、殺傷能力を持った鉄の礫が穴をあけた・・・・・・。
ツトムの背後の壁に。音が止み、時間をおいてツトムの頬から一筋の血が流れ出した。あまりの事にその場にいる全員が硬直する。
「……しゃ〜る〜!!」
「あは、あはははははは。」
シャルの乾いた笑い声が部屋に響き渡る。少年などは驚きの余り失禁してしまった様だ。
百聞は一見にしかず。その おもちゃ の威力を目の当たりにしたシャルは、おとなしくそれを渡した。
「・・・大丈夫?」
「お〜ま〜え〜は〜。俺を殺す気か!?」
「あは、あははははは。ごめんね〜先に行ってるね〜。」
シャルは笑いながら部屋を出ていった。逃げ出したとも言う…。
「まてこら!っと、こんなアホを相手にしてる場合じゃねえ。坊主、頼むからこれをどこで手に入れたのか教えてくれないか?これがあればあいつを、聖獣を止められるかも知れねえ。」
「う、うん。わかたス。連れて行くス。」
連れて行かれたのは砂漠の入り口に近い砂丘だった。そこには砂漠には似合わないコンクリートでできた小屋があった。ドアには“WEPON”の文字がつづられている。
「これは…」
「ここは、少し前におら達が見つけたス。皆怖がって入らなかったけど、おら面白そうだから入ってみたら、さっきみたいのがいっぱい落ちてたス。」
(まじか〜!!米軍の武器庫の一部じゃねえか!なんでこんなところに!?)
「おい、坊主。お前の以外にはここから物を持ち出した奴はいねぇんだな?」
「うん。おらだけス。」
「そうか。坊主、名前は?」
「トマムっス。」
「トマムか。お前のおかげでなんとかなりそうだぜ。ありがとうよ。それからここにはもう近づいちゃ駄目だ。ここには人を殺す武器がたくさんある。扱い方も知らずに触ると・・・死ぬ。これは嘘じゃない、わかるな?」
真剣な表情を作りトマムに語りかける。トマムはコクコクと首を縦に振った。
「わかたス。ここにはもう近づかないス。」
「じゃあ、そろそろ飯を食いに行こう。おれは腹が減ったよ。」
「ういス!」
言ってトマムが駆け出そうとしたとき。
「あ、待った!・・・これはお前の勇気に免じてやるよ。弾は抜いてあるから安全だ。まったく・・・今まで死傷者が出なかったのが不思議だぜ。ほら。」
先ほどトマムから取り上げた銃を返してやると、うれしそうに受け取った。
「ありがとス!うれしス!」
(何でこの世界にこんなのが有るのか知らんが、利用できる物は利用させてもらおう。)
家に戻ると村長一家とシャルが食卓に着いて待っていた。ツトムのことを待っていたようで食事にはまだ手をつけていない。いや、一人だけ先に食べていた。――シャルだ。
(このアマ〜人を殺しかけておいて先に飯を食うだ〜〜〜〜?)
沸沸と怒りが湧きあがる。後ろから殺気を飛ばしていると、ようやく気がついたのか。
「あら、遅かったじゃない。どこほっつき歩いてたの?」
先ほどの事などまるで何も無かったかのように言う。
(いつか泣かす!!!)
「ちょっと野暮用だ!それより、村長。あの聖獣をどうにかする方法が見つかった。明日作戦を決行したいんだが・・・。」
「本当ですかいのぉ!?嬉しいですのお。明日居場所を見つけ次第お伝えしますのぉ。」
「ああ、任せてくれ。必ずあいつをおとなしくさせて見せるぜ!」
(どうなんだか。)
シャルの冷ややかな視線にツトムは気がつかない・・・。
「で、どうするつもり?あんな大口叩いちゃって。」
部屋に戻るなりシャルが突っかかってくる。ここはツトムの部屋である。なんの能力も持たないツトムに聖獣が止められるとは到底思えないという顔だ。
「要は奴を動けなくすれば良いんだろう?簡単な事だ、任しておけって。シャルにも手伝ってもらうから今日は早く寝ろよ。」
「別に寝る必要は無いわよ、今日は時が正常に流れてるからまだお昼過ぎくらいだしね。
それより何をするつもりなのか教えてよね。」
(ま、この太陽じゃ寝る気にならないのは無理もないか…)
「わかった。話すよ…あのな――」
「ツトム様〜奴が現れました!ここから西に5キロ地点にまで迫っています!!」
その報告が来たのは夕食から約8時間後だった。もう夕方になろうかというのに太陽は沈む気配を見せようとはしない。
「ああ、ホアじゃんか。で、奴の様子は?」
手に持った緑色の筒を磨きながら聞く。ここはツトムの部屋ではなく、昨日の発見した武器倉庫がある場所だ。
「ええ、今は随分と落ちついております。まるで眠っている様です。」
「そのまま寝ていてくれるだけなら問題無いのにな・・・。」
ため息混じりに立ちあがる。と、もっていた 筒 を肩に担ぎ上げる。服装も昨日とは違い、砂漠迷彩の施されたコンバットスーツを着ていた。
「悪いんだけど、シャルを起こして来てくれない?昼寝してるはずだから。それに、1人で砂漠を5キロも歩きたくないよ。あいつに連れて行ってもらう。」
「解りました。直ちに呼んでまいります。」
言うなりダッと駆け出して行く。その勢いは砂煙を巻き上げるほどだ。
(なんであんなに気合が入っているのかねぇ〜。)
眠い目をこすり空を見上げる。と、ようやく太陽が思い出したかのように砂漠の向こうへと沈もうとしていた。
しばし感慨にふける。今日のツトムの装備は砂漠仕様の迷彩服、背中にはライフル銃、肩と腰のガンホルダーに合計4丁の銃、腰には昨日もらった白銀の剣をダガーにして装備している。なにより圧巻なのはこれから背負う事になる。スクラッパーと呼ばれる180ミリ対戦車ロケット砲である。
(これ全部が本物なんだな・・・う〜〜気合が入る〜〜。)
と、武者震いをしているとシャルが空から飛んできた。文字通り 飛んできた のだ。
「やっと出てきたんだって?お母様は寝てるし、結局私達がやるのよね〜やれやれだわ。」
「なんだ、シャルって空も飛べるのか。だったら話は簡単だな、俺をあいつのいるところまで連れて行ってくれよ。」
「いいけど・・・あんたそれ何キロあんのよ?何だかとっても重そうなんだけど。」
げんなり顔のシャル。寝起きでやる気を出せと言うのも無茶な話だが…
「協力してもらうって言っただろうが!早く行くぞ!」
「はいはい。解りましたわよ〜だ。」
太陽は完全に沈んだ。砂漠に横たわる巨大ミミズ、いや聖獣が月明かりのシルエットに浮かび上がって、ある種の神秘的な光景をかもしだしている。ツトム達はその聖獣から300メートルほど離れた砂丘の頂上にいた。
「はぁ〜〜〜疲れた〜〜おも〜い。」
「やかましい。気づかれるだろうが。ちょっと黙ってろ。」
(こいつ、本当にただの女の子になっちまってるな。最初のあの尊大な態度はどこへいったのやら。)
肩からはずしたスクラッパーに弾を込める。最もこの弾は本当に対戦車用ではなく、猛獣捕獲用の麻酔弾をバラし、スクラッパーの弾に詰め込んだもので、お手製の麻酔弾だ。
砂の上に腹ばいになり、照準を定める。
(あれだけ大きければどこにでも当たるが・・・最も効果的に効く部分となると?)
「シャル、あいつの頭部はどこにあるか知ってるか?」
「知るわけ無いじゃない。あんなに目があるってことは全部が頭なんじゃないの?」
同じように腹ばいになったシャルが返事を返してくる。
「そうか・・・じゃあ、撃つから静かにしてろよ。」
照準を目の無いところに向かって合わせる。これは直接体内に麻酔を行き渡らせるためだ。目に当ててしまっては体内に浸透しないかもしれない。ゆっくりと引き金を絞る――。
ぼぅ!
麻酔弾が発射されるた、と思った瞬間には標的に命中する。標的に変化は無い。砂漠は相変わらずの静けさを保ち続けている。懐から双眼鏡を取り出して覗きこむと。弾はきちんと刺さっているのが見える。
「よし!近づいて確認するぞ。」
「え〜!?また担いで飛んで行くの〜?」
「ブレアさんに言うぞ。」
「さあ、行きましょう!」
近くで見ると、いっそうその大きさが実感できた。横たわる姿はまさに山、その体躯は
今はピクリとも動かない。
「完全に効いてるなこれは。しばらくは目覚めないだろうな。」
壁とも呼べるその体に手を当て、耳を当てる。ドクンドクンと、血液だか体液だかが規則正しく流れる音が聞こえる。
「そうね、魔力も感じないし、完全に眠ってるわ。なんだかあっけないくらいね。」
「まあな。猛獣捕獲用の麻酔弾を50個もバラして詰めこんだ特製だからな。これでブレアさんが起きるまでの時間稼ぎになるだろう。・・・ん?」
――キラリ!
と、何かが月光に反射したのに気がつく。ちょうど目の中心にあるらしい何かがツトムの心に引っかかった。よく見ようと目を凝らすが、3メートル程の高さにあるそれは月光にも邪魔されこの距離では判別できない。
「なあ、シャル・・・ちょっとあの辺間で連れて行ってくれないか?」
反射のあった部分を指差して言う。
「なんで私がそんな事しなきゃいけないのよ!もう用事は済んだんだから、もう帰るわよ。」
「ブレアさんに…。」
「わかったわよ!連れて行けば良いんでしょ!?この貸しは高いわよ!」
(ぷぷ、便利な言葉だ。)
胸中でそっと呟き、シャルの肩に手を乗せる。それと同じに体が中に浮く。数秒も経たないうちに目的のポイントにたどり着くと、先ほどの反射の正体を探して見る。
「ん〜?この辺だったんだけどな?」
「何探してるのよ?魔力が尽きちゃうから早くしてくれない?」
後ろでシャルが何やらぶつぶつ文句を言っているが、それはこの際無視して注意深く探す。肌に手を当て滑らせていると――。
「いて!」
それは指に鋭いものが刺さった時の痛み。再び目を凝らしてその当たりをまさぐる。今度はもっと慎重に。
「これは・・・針金?」
月光程度でもその針が金色をしている事が解る。太さからするとそんなに長くは無いようで、抜いてみる事にする。
ズブズブと、あまり気色の良くない音がして針が抜け出してくる。思ったよりもそれは長く、50センチ程抜いたところで一旦手を休める。
「なあ、これなんだか解るか?」
「なによ?」
今の今までぶつぶつ言っていたシャルが顔を突き出す。その表情には不満が有り在りと浮かんでいる。が、それを見たとたん不満の表情は驚愕へと変った。
「き、き、き、き、金の針!?」
「きんのはり?」
なんだか良く解らずオウム返しのツトム。シャルはその表情を驚愕から呆然へと変化させている。
「これって、お母様が無くしたって言ってたのに・・・。」
「だから、その金の針ってなんなんだよ?」
説明が無いことに苛立つ。いや、ある種の焦りがツトムにはあった。
「金の針は魔力を物理凝固させるのに使うものなの。不安定で気体のような魔力を物理化するのは難しいわ。何故なら魔力は物理法則の逆を行くものだから。」
「・・・・・・。」
言われた事を頭の中で整理するが半分も理解できない。当たり前である。人間であるツトムには魔力を感じる事ができないのだから想像すらつかない。頭の中で物理の授業が思い起こされる。文系、いや体育会系の彼は物理が嫌いだった。
「つまり魔力から物を作るのには、これがあったほうが便利ってこと!これを使うと魔力の物理転換率・・・え〜と、つまり固体化させやすくなるのよ!解った?」
「あ、ああ解った。で、何でこれがこの聖獣様に刺さっているんだ…?」
理解してないのを察したのがシャルが説明を続ける。今度のは聞きなれた単語があったために理解できたらしい。
「そんな事知るわけ無いじゃない!どうでも良いから持って帰りましょう。お母様も喜ぶわ。」
「ちょっと待ってろ、すぐに抜くから。」
言って続きに取りかかる。だが針は60センチ、70センチをこえても先端が見える事は無かった。
「おいおい、いったい何センチあるんだこれは?」
いいかげん作業にも飽きてぼやいた頃、針を抜く手が止まった。針は何かに引っかかっているのか、いくら引っ張っても抜けそうに無かった。さらに聖獣の血液なのか、緑色の体液が滑って抜きにくくしている。
「何やってんのよ!かしなさいよ。」
シャルが横から割りこみ針に触れる。と、針を中心に月光よりも眩い光が溢れ出した。
ぎゃおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんん!
同じに響き渡る音――叫び声。それは疑う余地無く、眠っていたはずの聖獣―ランドスケープ―の叫び声だった。
「うっそぉぉぉぉぉぉお!当分寝てるんじゃなかったのぉぉぉ!?」
光の中でシャルも叫びをあげる。その手には1メートルにもなる金の針が握られていた。
「ばっか!飛べ!離れるぞ。」
目の前のまぶたが開き、直径1メートルもあろう眼球が現れる。さらにその目は緑色の液体を流しており、ちょっと・・・いや、かなり不気味だった。その目が、いや巨大な体躯そのものがツトム達に迫る。つまり、ランドスケープは寝返りを起こそうとしていた。
(やべっ!!!シャル、早く!)
振り向いて横を見やると、迫力に圧倒されているのか呆然としている。このままランドスケープが寝返りをうったならアニメの様にぺちゃんこになり、紙の様に風で飛んでいく。一瞬そんな光景がツトムの頭によぎるが、そんな事はありえない。圧死するだろう。
「っっっこのスカ!!!」
全力でランドスケープの体を蹴り、反動をつける。そして彼は…シャルを投げ飛ばした。
「っきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドップラー効果込みで悲鳴が遠ざかる。
真言が重力を中和しているのか、もしくは単純に空を飛んでいただけなのか。どちらにしてもシャルと離れてしまったツトムは重力に従い、落ちる。
「よっ、っっっつ!」
着地した衝撃に足がしびれ、たたらを踏む。しかし寝返りは待ってくれない。すぐにその場を離れる。が、砂漠の砂はツトムの脚力を分散する方に手伝う。
(インディージョーンズの気分だぜ!)
上空が影に覆われる。もちろんそれはランドスケープの巨躯である。影の範囲から脱しなければ圧死は免れない。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!まにあわねぇ〜」
「ツトム!早く!!」
投げ飛ばされたはずのシャルの声が聞こえる。上の方からだった。見上げるが姿は見えない。目に映るのは影、死の幕を下ろす闇のカーテン。それに抗うかのように目を閉じ、大地を蹴る足にさらに力をこめる。
(こんな情けない事で死ねるかぁぁぁぁ!)
「ぁぁぁぁぁ!止まりやがれぇぇぇ!!!」
心の中で思っていたことは、いつのまにか叫び声になっていた。嘆願、そして意志は1つにまとまる。
「ツトム!!はや・・」
シャルの声も聞こえなくなる、そして…辺りは静寂に包まれた…
..........to be continued...........
パルミティア 第六章.〜金の針〜
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