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第一章.〜パルミティアの理〜
シャルの自宅にて。
「さあ、はいってくれ。」
「お邪魔しまーす。へぇ・・・まともな家じゃねえか。」
赤レンガ造りの2階立ての家である。スイスの片田舎に建てられる様式に似ているなとツトムはひとり思った。風車が隣にあっても違和感がないであろう。
「まともとはなんだ。この世界では標準的な家だぞ。」
「いやぁ、お前人間の姿してないだろ?洞窟みたいなものを想像してたからさ。」
かなり失礼な事を言っているが、もう慣れてしまったのかシャルは余り気にしていない様だ。
「お母様ぁ!!いらっしゃいますか?」
「何です?騒がしい。」
1人の女性が2階から降りてきた。見た目は20代後半の気品の溢れる女性だ。全体的に華奢に見え、腰まで伸びた黒く長い髪が白く滑らかな肌に映える。黒のワンピースがとても似合っていて目元の黒子が印象的な美女だ。
「お母様、面白いお客様をお連れしました。」
女性・・・シャルの母親は一目アダムを見て。
「まあまあ!人間さんとは珍しいですねぇ。初めまして、私の名前はイーリー・ヴァン・ブレア。ブレアとお呼び下さい。」
少々間延びした喋り方をしているが、それがまたよく似合う。
「初めまして、ブレアさん。お邪魔します。」
ツトムはふとそこで言葉を止めた。少しいぶかしげにブレアの顔をのぞいている。
「いかがなさいましたか人間さん。私の顔になにか付いていますか。」
にっこりと優しい微笑みを向けてくる。ツトムは何故か渋柿を食べたような顔を続けていた。ふいにシャルの方を向くと。
「な―――っとくがいかん。おいシャルどうしてお前みたいなケダモノが、こんなきれ−な人の子供だと言うのだ。だいたいブレアさんは人間じゃねーか、おめーさてはここのペットだろ。てめー嘘をついたな。」
「まぁ、綺麗だなんて、そんな事は…。」
ブレアは両手を頬に当てて喜んでいる。一方のシャルは…
「誰がケダモノかー!!」
激昂していた。噛みつかんばかりの勢いである。ツトムはそれを両手で押さえつけながら、視線でブレアに説明を求めた。
「まぁまぁツトム様。シャルはですねぇ、まだ ポルモリフ を習得しておりませんの。だからその姿をしているのですわ。」
「ポルモリフ?」
噛み付こうとするシャルの頭を押さえながら問う。
「一言でいうならば変化の術ですわ。」
「フ−ン便利なもんがあるんだな。ブレアさん、俺にも教えてよ。」
「ごめんなさいね。 人間 の方には真言は使えないんですの。・・・シャル、いつまでじゃれているのです?ご迷惑ですからお止めなさいね。」
その言葉にシャルがおとなしくなる。母親の命令は絶対のようだ。それでも悔しいのか
恨みがましい目でツトムを睨んでいる。
「そんな謝んないでよ。言ってみただけだからさ。」
「私に対する態度とずいぶん違うんだな。」
シャルが、じと目で睨む。
「へん!悔しければ人間の姿になってみな。」
「必要になればな。それより君は何しに来たんだっけ?アダム殿。」
「あっ!そうだブレアさん実は…」
言い終わらないうちにブレアの声が遮る。
「まぁ! アダム というお名前なんですかぁ。それはそれは。」
ツトムの両手を握り、嬉しそうに振り回すブレア。
(なんだ?さっきのシャルの反応といい今の反応といい、 アダム っていう名になんかあるのか?)
「ああ、でもそれはそう呼ばれているだけで本当はツトムってんだ。ツトムでもかまわないよ。」
「はい。以後御見知りおきを アダム 様。」
結局アダムと呼ぶことにしたようだ。右手が差し出されれ改めて握手が交わされる。
「それで本日は如何なる御用でいらしたのでしょうか?」
「ああ、本題に入るけど俺はこの世界の住人じゃない。気が付いたらこの世界にいたんだ。」
「…この世界 パルミティア には純粋な意味での人間はおりません。他の世界から人間が紛れ込んだのは初めての事です。」
「ああ、それはシャルから聞いた。それでだ俺はいろいろと忙しいんで、早く自分の世界に帰りたい。ブレアさんは転送術が使えるんでしょ?俺を元の世界に送り返してくれないかな。」
「………」
と、ブレアは困った顔をしながら黙り込んでしまった。
「それと…」
「なんです?」
「そろそろ手を離してくんない?」
話してる間中も二人の手は握り合ったままだった。
「あん、ごめんなさいね。本物の人間の手の感触は久しぶりだったものですから。」
言いながら手を離す。とても名残惜しそうだ。
(久しぶり?昔には人間がいたって事か。まぁなんで人が絶滅したのかなんて、俺には関係はないか。どうせすぐに帰るし。)
「あのですね、アダム様…」
「送ってくれんの?」
期待に満ちた目でブレアを見つめる。
「言いにくいですけど、転送術には術者の強い意思力が必要なのです。目的地のイメージも大事ですし、距離にしたがって魔力も消費されます。アダム様の世界がどこにあるのか解からないのに術を施すのは…失敗すると異次元の彼方に飛ばされてしまいますわ。」
ブレアはとても申し訳なさそうにしている。
「そんな、謝んないでくれよ。そんなに簡単にいくとは思わなかったし…」
「ほう。意外だなもっと取り乱すかと思ったのに。」
シャルが横槍を入れてくる。
「シャルうるさい。じゃあさ、転送術教えてよ。自分で帰るからさ。」
ブレアはまたもや首を横に振る。
「先ほども申し上げた様に、人間であるアダム様には真言術は使えません。真言を発動するための魔力が備わってないのです。人間には魔力を行使する役割がないのです。」
「え………。」
ツトムの頭の中が真っ白になる。
「まじかよ。他に手はないのか、シャル!」
シャルは何も言わずそっぽを向いた。気まずいフインキが場を支配した。
(畜生!なんてこった。この先この世界で生きてかなきゃいけないのか?)
「…あるかもしれません。」
しばらくして、ブレアが口を開いた。
「本当に!?どうやって。どうすればいいんだ俺は。」
唯一の手掛かりにブレアの肩を掴みゆさぶる。
「お、落ち着いてください。魔力がなくても真言を紡ぐ方法はあります。そんなに興奮なさるのは、よろしくないですわ。」
たしなめられて多少落ち着いたのか、ブレアから手を離してアダムは次の言葉を待った。
「そうですねぇ、長い話になりますのでお茶でも飲みながらゆっくりとお話いたしますわ。こちらへどうぞ、最近手に入れたおいしい紅茶がありますの。」
ブレアは微笑みながらリビングへとうながした。
「すいません。取り乱してしまって。」
ブレアのそんな態度に、アダムはさっきまでの自分を恥じて素直に謝った。
「いいんですのよ、どうか気になさらないで下さいな。シャル、アダム様を案内して。それから 今日こそ 術を完成なさいな。」
“今日こそ”と強調された部分にシャルはビクッとした。
「はい。お母様。」
声が震えている。シャルはびくびくしながら、ツトムをリビングに案内した。
案内されたリビングは天井が吹き抜けになっていて、レンガで造られた暖炉が据えてあった。大きな絨毯の上には、大きなソファが暖炉を囲む様においてあり、その中心に木製の洒落たテーブルが置いてあった。
(なんか、ものたりねぇな〜)
有る筈のものが足りないと人は不安になるものである。
(そうか、テレビがないんだな〜)
普通ならどの家庭にも有るはずのものがない。ツトムはますます異世界にいる事を実感した。そのまま珍しげにまわりを見まわしてると、シャルがリビングから出ていこうとするのに気付く。
「どこにいくんだよ?」
「練習だ…」
ポツリと言ってシャルは出ていった。
(ああ!ポルモリフってやつか。あいつが人間の姿になったらどうなんだろ?)
そんな事を考えていると、ブレアが紅茶の匂いが香るお盆を持って現れた。
「まぁまぁそんなところに立ってらっしゃらないで、座ってお待ちになっていらしたら良いのに。ホントあの子は気が利かないわぁ。」
「別に良いさ、面白くていろいろ見ていたところさ。」
優雅にお盆をテーブルに置きながら、ブレアが聞き返してくる。
「あら?なにか面白いものがございまして?」
ツトムはソファに座りながら答える。
「面白いね!ほとんどが俺の世界のリビングとかわんねぇとこが。」
「あら、そうなんですか。残念ですわ、いろいろな世界の違いなどもお尋ねしたかったんですが。」
ブレアが慣れた手つきで紅茶を注ぐ。甘くて上品な香りがリビングに広がった。
「お砂糖はいかがですか?」
白い陶器のポッドをアダムに渡してくる。
「少しだけいただこうかな。」
アダムは2杯ほど入れた。
「まぁ、そんな量で足りますか?私は、恥ずかしながら甘党でして、その位では足りませんわ。」
(可愛いとこ有るんだな。)
しかし、次の瞬間そんな思いは打ち払われた。ザァーっと砂糖をカップの中に入れていく。スプーン何さじとかではなくポッドから直接流し込む。やがてポットの中身が3/1程流し込まれると満足したのかその手を止めた。それを見たツトムは顔が引きつっている。
「あら?おかしいかしら。そうよねぇ、こんなおばちゃんが甘党なんて。似合いませんよね。」
ブレアが悲しげに目を伏せる。慌てて弁解するツトム。
「いや、そういうんじゃなくて、甘党は良いんだけどその量が…ブレアさんはとても綺麗だし、おばちゃんなんてとんでもない!」
ブレアは機嫌が良くなった様だ。
「あら、お上手ね。綺麗なんて。どうぞ、紅茶が冷めてしまいますわ。」
「いただきます。」
(そうか、二人とも心を読んで会話をしてるんだなぁ。気をつけなきゃ…)
「その通りですわ。アダム様と私達の言語はだいぶ違うみたいですから。申し訳ありませんね。」
「良いよ。そんな事。おかげでシャルには信用してもらえたんだし。」
ブレアも紅茶をおいしそうに飲んでいる。見ているツトムは胸焼けを覚えた。
「そう言っていただけると幸いですわ。」
にっこりと、笑顔で答えてくれる。
(ん?おばちゃんて言うけど、いったい何歳なんだ?)
実際ブレアは20代後半にしか見えない。人間でないのだからそれも仕方ないだろうが。
「あら、女性に年齢を尋ねるのは少し失礼ですわよ。」
大人の微笑を浮かべ、ウインクをする。
「あ、まいったなぁ。思った事がなんでもばれるんじゃあ、やりにくいよ。」
額に汗を一筋流しながら、苦笑いを浮かべる。ツトムはあまり年上の女性に対して免疫ができていないようである。
「ふふ。でも私達も全ての者の心が読めるわけではないのですよ。相手がこちらを意識したときだけ、こちらに心を開いてくれていないと読めないんですの。」
ブレアはもう紅茶を飲み終わってしまった。2杯目を注いでいる。ついでにツトムのおかわりも注ぐ。
「そうなんだ、それは助かるよ。」
「ですから、アダム様が心を開いてくださるのは、とても嬉しいですわ。」
「ふーん。別に意識してないだけなんだけどなぁ。」
「あら、それが大変な事ですのよ。人は常に他人の事を気にするものですわ。その結果心を閉ざしてしまう事のほうが多いんですの。さすがはアダム様ですわ。」
「さすがね…」
ブレアの言い方はまるで以前に会ったことがあるようだった。
「それよりさ、さっきの話なんだけど…」
「あら?私の年齢はもういいんですの?」
いたずらな微笑を浮かべる。
「それはいいから。さっきの話をお願いしますよ。」
「あら、私の事なんてどうでもいいんですか?」
ブレアがすねたような顔をしている。アダムを困らせて楽しんでいる様にも見える。
「ブレアさ〜ん。勘弁してよ。どうして欲しいの?」
「ふふふ♪冗談ですわ。アダム様が、どうでも良いなんて態度を取るから悪戯したくなってしまったんですの。ごめんなさいね。」
ブレアは無邪気な顔で笑っている。その笑顔からはとても子供がいるような人妻には見えない。
「ハイハイ、それでおいくつなんですか?ブレアさん。」
もうヤケだ、とでも言わんばかりに聞いた。
「ふふ。いくつに見えますか。」
「ったって、例のポルモリフというやつで姿を変えられるんでしょ?だったら外見の年齢なんて意味ないじゃないですか。」
どう見ても子供がいるような年には見えない。そもそも本当の姿も想像がつかないのだ。
「あら、そんな事はございませんわよ。ポルモリフは下位の真言ですから、姿を変えるといいましても人間になったらこの様な姿になるというだけですもの。なんでも変えられるわけではありませんわ、もともとの素材…その人の容姿が大きく関ってくるんですのよ。だからこの姿はあながち嘘ではありませんわ。」
「じゃあ、うーんあんな生意気な子供もいるし…28くらいかな?」
ブレアは顔を赤くして照れている。
「あらぁ、うれしいですわ。そんなに若く見ていただけるなんて。もぅ、ホントにお上手なんだから。」
「いや、ホントにそう思ったんだけど…ちがうんだ?。」
「いいえぇ。人間の年齢に換算すると、もう少しだけ上ですわ。本当は私、今年で30000歳位になるのかしら…でもこの世界で時間なんて意味がないですわ…」
ブレアの顔が曇る。
(時間が意味ない?なんの事だ?それより三万歳って…まじかよ。)
ガチャリ…と背後のドアが開いた。一人少女が入ってくる。腰まで伸びた黒のロングヘアー、丸い瞳、小さな顔をしている。服装はジーンズのようなものを着ていた、Tシャツは、良く見るとツトムの着ている物に似ている。
(好みだ…。)
ツトムは言ってから後悔する事になった。
「ふん。君に好みだと言われてもうれしくないな。」
どこかで聞いた口調…声色…紛れも無く。
「げ!その声はシャルか?」
アダムがのけぞってびびった。
「ふん。見て解からんのか?まったく失礼な奴だ…」
「お・お前…何で女装なんかしてるんだよ、可愛いけど気持ちわりぃぞ。」
「誰が女装か!私は正真正銘お・ん・なだ!」
シャルが怒りをあらわにしていた。アダムは呆然としている。
「嘘だ、夢だ、詐欺だぁ。信じるかそんな事!どうせ術かなんかで脅かそうとしてるんだろ!?」
ぶち! そんな音が聞こえたような気がした。怒っているのか、悲しんでいるのかわからないがシャルの体が小刻みにゆれている。
「そんなに信じられないなら…夢かどうかその体に教えてやろう!フレアシープ・バーストブリッド!」
刹那。シャルの周りに炎の球体が5つ現れる。シャルの目は…据わっている。その炎は次の瞬間ツトムに向かって加速する。当たれば普通の人間である彼は、木炭化するであろうほどの火力である。
「げ!なにすんだよ。」
横っ飛びしその場から離れるが炎は追いかけてくる。数瞬後にはツトムの黒焦げができあがるであろう。と思われた瞬間!!
バジュゥ!!
炎は霧散した。
「シャル!!お客様になんて事をするのかしら?そんな子に育てた覚えはありませんよ。」
あんな事があった後だというのに、ブレアは落ち着いている、口調も穏やかだ。どうやら彼女が何かをして炎が消えたらしい。
「でも、お母様。」
「おだまりなさい、シャル…何時も言っているでしょう常に冷静でいなさいと。アダム様、おけがはございませんか?」
ブレアの言葉にシャルが押し黙る。ツトムは制服についた埃をはたきながら、たちあがった。
「ああ、大丈夫。今のは俺も悪かったよ。ごめんな、シャル。」
「シャルも普段はもっと冷静なんですのよ。どうにもアダム様と出会ってから興奮している様ですわ。お許しになってくださいね。」
ブレアは深々と頭を下げた。
「いいって。今のは俺が悪かったんだから、ブレアさんもシャルも気にしないでよ。」
「…悪かった、少し興奮している様だ。お客さんなんて久しぶりなんでな。」
シャルも頭を下げる。
「まぁ、この子は。どうしてそんなに口が悪いのかしらもっと丁寧に謝れないの?」
ブレアはシャルのほっぺをつねった。微笑む顔とは裏腹にかなりの力が入っている様だ。
シャルが涙目になっている。
「お母様、痛いれふ。」
まだ部屋の温度が10度くらい高いような気もするが、アダムは気にしたそぶりも無く立ちあがった。
「はいはい。じゃあ、ブレアさん話の続きをしてくれる?それと…紅茶こぼしたんでお代わりを。」
「わかりました。シャル、アダム様にもう一度謝るのですよ。丁寧にね。」
そう言い残すとブレアは紅茶ポットを持ってリビングを出ていった。
..........to be continued...........
パルミティア 第一章.〜パルミティアの理〜
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