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………忘れて……
(……………)
……忘れたい…
(………)
…忘れて……
(なぜ?)
………
(なぜ忘れたいの?)
……忘れた方が…いいから……
(なぜそう思うの?)
覚えていると、辛いの………
(………)
……辛いの………
(………)
………辛い…の……
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☆ ラウル eye ☆
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手を引く少女が案内してくれた部屋、そこはあの筒(カプセル)の並ぶ区画からさらに奥に行った所にあった。
割と小ぢんまりとした部屋で、中にはベッドと木製のテーブル、そして一対の木の椅子がテーブルを挟んで向かいあっている。
続き部屋があるのか、奥の壁には扉があった。
「………」
どこか少し、それまでの部屋と雰囲気が違っていた。
周りを見てみても途中で覗いた、他の部屋と同じ金属の壁で大きな違いはない。
それでも人臭さが感じられて、どことなく不思議な感じがする。
どうやらこの少女がこの遺跡を『家』というのも、まんざら嘘ではないみたいだ。
「とりあえずテキトーに座っといて。いまお茶、持ってくるから」
「……適当にと言われてもな」
ココまで案内してくれた少女――ロビンは、戸惑う俺を残して部屋の奥の扉を開けて行ってしまった。
『侵入者』なんて言われた割には、俺に対してかなり無警戒だ。
いくらタクアを人質にとられているから、あまり無茶は出来ないとはいえ……
―――だいたい俺があの娘を襲って逆に人質にしたら、いったいどうするつもりなんだ?
この部屋に来るまで、少女は俺を警戒するどころかずっと先立って俺の手を引きながら歩いてきた。
その間中、俺に背中を見せっぱなしだ。
その上、金髪の女性もそばにはいない。
「向こうで寝てる兄さんを連れて、後から行くから」と言って、少女とはあの場で別れている。
つまり俺にとって、人質はまだ向こうの手のなかにあるわけだ。
だが、ここまで案内してくれた白衣の少女を守る者も、今は誰一人としていない。
俺がその気になれば、こちらも少女を人質にすることくらい簡単だろうな。
「お待たせーって、あれ? まだ座ってないの?」
「え、あ、まぁ……」
突然、甲高い子供の声が考えに割り込んできた。どうやら続きの部屋の方から少女が戻ってきたらしい。
「もぅ!ほら、向こうに座って。いまお茶、注いであげるから。
あ、紅茶でよかった?それとも緑茶がいい?珈琲もあるけど?」
少女は手にもっていたお盆から、ポットと二つのカップをテーブルに下ろす。
カップのふちから上がる湯気が、かすかに見て取れる。
どうやらカップはすでに暖めてあるようだ。
「俺は……とりあえず何でもいいよ」
言われるままに椅子に座りながら、少し迷ってそう答えた。そのとたん、少女が『ムッ!』としたような顔を上げる。
「とりあえず?なんでも?
駄目よ駄目よッ そんなあいまいなの!」
「………」
目が点になった―――いや、なっていたと思う。
自分の胸までしかないような少女に、まさか怒鳴られるとは思っていなかった。
彼女は、どっからどう見てもまだ『幼い』というのがピッタリくるような、そんな背格好の少女なのだ。
「男でしょッハッキリしなさい!」
「は、ハイッ……って、お茶の味なんてわからないよ」
「あら、どうしてよ。アタシが入れるお茶が不服?」
「いや、そういうことじゃなくて」
俺は苦笑を浮かべながら、とりあえず椅子に座った。それでもまだ立っている少女と視線の高さは大して変わらない。
「知らなかったこととはいえ、君らにとっては俺やタクアは侵入者なんだろ?」
「勝手に入ってきたんだから、そうなるわね」
「それで俺は連れが捕まって、とりあえずおとなしくしているしかない。そんな状況でお茶の味なんてわかるわけないだろ?」
「そんなに堅苦しく考えることないわよ、別にとって食うわけじゃないし。暴れたりなんだりしなきゃ、ちゃんと地上に返してあげるわ」
そう笑って少女は一つカップを差し出してくれた。
中には透明度の高い茶色の液体がなみなみと注がれて、もうもうと大量の湯気を上げている。
「とりあえずそれでも飲んで、リラックスして頂戴」
―――これを?
思わず問い返したくなるのを、ノド元で我慢した。
そんな俺の様子に気づいてないのか、少女はテーブルをはさんだ向かい側に座った。
俺のと同じように、もうもうと湯気を上げるカップを手にして。
「さっきも言ったけど、あなたにはいろいろ訊きたいことがあるの」
「訊きたいこと?」
カップを受け取ったものの、どうしても口をつける気にはなれなかった。受け取ったままのカッコで、少女の言葉に問い返す。
「そっ、訊きたいこと。たとえばどうやってここと外とを隔てるあの扉を開ける方法を知ったのか、とか―――アチッ!」
「………」
椅子に腰をおろした少女がすこし斜に構えて足を組む―――
そんな背伸びしたポーズでいれたてのお茶を一口すする……直後、飛び上がった。
―――……やっぱり。
「な、なによこれ、熱湯じゃない!」
自分の手元でもうもうと湯気を上げる紅茶を見下ろして、俺は心の内でつぶやいた。湯気の量がどう見ても普通じゃないのだ。
お茶の香りも全て飛んでしまっているし。
「お湯を沸かすときの温度設定、間違ったのかしら?あ、飲む時は気をつけて。
熱湯を飲ませて火傷させようなんて、そんなこと考えてないんだから」
「信じるよ………」
苦笑しながらうなずくと、少女は笑顔を見せた。
その無邪気な笑顔が、俺にはどうしても気にかかる。
「だけどな、気楽に構えすぎじゃないか?」
「気楽って?」
「たとえば……」
俺は一本の短剣を取り出した。
傷だらけの刀身で特に装飾もない剣だが、刃はよく研いでいる。
光にかざせば鋭い輝きを放つ、ちょっとしたシロモノだ。
「この短剣を、俺がいきなり君に投げたとしたら、どうする?」
「そうねぇ……」
少女の返事を待たずに、その短剣を軽く放り投げた。
大した勢いはつけていない。ゆっくりと飛ぶその短剣は、山なりの軌道を描いての少女の顔に向かって落ちていく。
避けるなり、受け止めるなり、何かをしないとその幼い顔を刃が切り裂くことになる。
「こんなの、簡単に避けられるじゃない」
少し驚いたことに、いきなり投げたことには驚きもしない。
どこか『期待はずれ』という表情をしながら、少女が身体を横にずらして飛来する短剣をゆうゆうと避けた。
その直後、俺は少女の背後からナイフを首筋に押し付ける。
「―――こうやって逆に人質にされるとか、考えた方がよくはないかな?」
声をかけて軽く手に持つナイフに力を加える。傷つける気はないから、刃の背の方だけどな。
「あれ? いつ後ろにまわったの?」
「君が飛んでくる短剣に、気を取られている間に」
自分の首に冷たい刃金が押し付けられているというのに、少女はいたって冷静だった。
いや―――冷静と言うよりは、なんとも思っていなかのようにひょうひょうとしている。
少しは驚くだろうと思っていただけに、こっちが肩透かしを食らった気分だ。
「で―――どうするの、アタシを刺す?」
「刺す、と言ったらどうするかい?」
「ン〜、別にかまわないわよ」
「え?」
冗談混じりに問い返した俺の言葉に、意外な返事が返ってきた。
自分で訊いておきながら、その返事の意味を理解するのに一瞬の時間をかけてしまう。
「アタシもいいかげん疲れたし。もう誰かが幕を引いてくれてもいいって、そう思っているから」
「子供が………なにをマセたことを言っているんだか」
内心の戸惑いを隠しながら、彼女の首に押し付けていたナイフを懐に戻す。
そのことに気付いた少女が、後ろにいる俺を見上げるよりも先に苦笑を浮かべて何とか平静を装ってみせた。
「あら失礼ねェ、アタシはこれでもれっきとした大人よ。身体が小さいのは、そういう血筋ってだけで」
「いったい何歳なんだ?」
「女性に年齢を聞くなんて普通は禁忌(タブー)よ? ま、アタシは若いから教えてあげてもいいけど」
いったい何がそんなに楽しいのか、少女はすっかりご満悦な様子だ。すっかり毒気を抜かれた気分になってくるなぁ。
「ンフフ〜♪ 何歳だと思う?」
「……そうだなぁ」
俺の下で人差し指を立てて笑っている姿は、どう見ても子供にしか見えない。
十から、十二・三ってところだろう。どうひいきめに見ても、それ以上には見えない。
きっと背伸びしたい年頃なんだろ、ちょっとおまけして言ってやるか。
「十……四、十五ってところか?」
「ブーッ 大人だって言ってんでしょッ―――あなたの目に、ハルカはいくつに見える?」
「あの金髪の女性のことか?」
少女に引っ張られてここに来るとき、別れ際にすれ違った金髪の女性の姿を思い出してみる。
男の俺と比較しても見劣りしない長身と、筋の通った端正な顔立ち。
いま思えば間違いなく美女だと思えるのに、あのときに感じたのは硬くて冷たい―――まるで彫刻、それも透明…氷りのような印象だった。
歳は、間違いなく俺よりいくつか上だろう。
「まぁ、二十六・七……かな」
「お、良い目しているじゃない。それから五、六個ひいたあたりよ、アタシは」
「五、六個下って……」
つまり二十か、二十一?
嘘……だろ?
やや角が立っているとはいえ、基本的に正円形の幼い顔立ち。眼鏡の向こうに見える、クリッとした大きな瞳。
俺の胸までしかない身長に、赤毛の髪は比較的短く切られている。
その上、女性としての部分は非常につつましく―――たとえ少年と間違われても無理もない……だろう、きっと。
金髪の女性と比べるまでもなく、どこをどう取っても少女―――下手すると幼女だ。
「今の―――」
「それ以上は詳しく教えてやんない。訊くだけ無駄だかんね」
『本当?』と訊くより先に、釘をさされてしまった。
「あなたが今ここにいるのは、アタシが興味持ったからなんだから」
言葉とともにまぶたが軽く閉じられ、少女の瞳が スゥ と細くなる。
「あなたは今、アタシが質問するためにいるの。それに答えてくれたら、あなたの疑問に少しは答えてあげてもいいわ。
―――さっきの口ぶりなら、何か訊きたい事があるんでしょ?」
「………」
少女の視線が何か得体の知れない―――恐怖でも、興奮でもない、奇妙な圧力(プレッシャー)を伴って俺の目を射抜いてくる。
―――確かに、ただの子供ではないらしい…
そもそも、ただの子供なら背後から刃を押し付けられた時点で、冷静なはずがない。
「わかった……何でも訊いてくれ。後で俺の質問に答えてくれるなら、答えられることは何でも話す」
「オーケー、そうこなくちゃね♪」
そう言って笑った彼女の表情(かお)は、すでに幼い少女のものだ。それを確認する時には、すでに圧力も霧散していた。
思わず大きな溜息をついてしまいそうになる。それを意識して押さえ、手元のカップに目を下ろす。
まだ湯気の立っているカップを見るふりをして、うつむいたままゆっくりと溜まった息を吐いた。
「あ、もう飲めるみたいね」
一口すすってお茶がようやく冷めてきた事を確認しながら、カップを持つのとは反対側の手で指を三本立てて見せる。
「じゃあさっそくだけど、アタシが訊きたいのは三つ。一つ目、その前髪は自毛なの?」
「ああ、これか?」
意識して苦笑しながら、一房だけ色の違う前髪を指で弾いた。
この前髪に関してなら、俺は訊かれ慣れていた。
俺の体毛―――髪や尻尾の毛は、全体的に色の濃い茶色(ダークブラウン)をしている。
そんな中で、この前髪だけは多少青みがかった色をしていた。それも光のあたり具合で色が変化するというオマケ付だ。
前髪という目立つ場所にあるだけに、知り合った人のほとんどにこの髪のことは訊かれる。
うっとうしいと思ったことはあったが、別に嫌いじゃなかった。
「これはちゃんと俺の頭から生えてる自毛だよ。生まれつきでね、別に染めているわけじゃないんだ」
「OK、わかったわ。
じゃあ二つ目。いったいどこでどうやって、外界とココを断絶しているあの扉のロックを開けたあの鍵(キー)を知ったの?」
「あの番号(ナンバー)かい? あれは、親父に教えてもらったんだ」
「お父さん?」
「ウチは親子二代つつけて遺跡専門の探検やってるんだ。大体のことは親父に習ったよ」
「そう……ちなみにお父さんって、生身?」
「な、生身?って……ちゃんと生きているよ」
奇妙な質問をする少女に、今度は自然に苦笑を浮かべた。
しかしそんな俺の様子なんて少女には関係ないのか、矢継ぎ早に質問が出てくる。
「なら、そのお父さんの髪は?」
「俺と違って黒に近いくらい濃い青、だな。藍色って言われたりもする。けど、俺の前髪みたいなことはないんだ。
この前髪は母さんの血から受けたものだから―――」
「お母さん?」
「自分が言うのもなんだけど、肌が白くて綺麗な人だよ。物心ついたときにはカプセルで寝ていたから、俺は寝顔しか覚えていないけどな」
「………じゃあ最後の質問、あなたのお母さんの名前を言ってみて」
「母さんの名前、俺はその口から直に聞いたことがないけど―――」
母さんの名前?
ひょっとしてこの少女が、母さんのことを知っているって言うのか?
「親父から聞いた名前は『ユリ』だと言っていたよ。―――知っているのか?」
驚いた。いや、驚いていた。
もう何年も自分の口以外で聞いた事のなかった名前を、こんなところで話すことになるなんて。
「知っている―――ってほど詳しいわけじゃないわ。アタシのデータベースに登録されているのよ。
あなたの使ったキーナンバーの持ち主としてね。
ま、これであなたの話しが嘘ではないことも証明されたわ。どうしてあの扉を開けることが出来たのか、その理由も一緒にね」
「どうも。……てことは、俺は疑われていたのか?」
「当たり前じゃない」
まるで警戒している様子がないから、この会話も疑われているかどうかなんて欠片も思っていなかった。
だいたい、少女(じぶん)に『何かをして』こないか?ってことよりも、侵入者(ラウル)が『何を言うか』の方が重要だなんて。
かわった娘だな、ほんとに。
「遺跡専門の探検家とか言ってるけど、アタシに言わせれば人ン家に泥棒が来たようなのとかわらないんだから。
―――そういえば、何で遺跡の探検なんてやってんの?」
「それは―――」
ピーッピーッピーッ
俺が答えようとしたのとほぼ同時に、どこからともなく耳障りな音が鳴り響きだした。
「へェ、珍しいわね」
「なんかあったのか?」
「あ、ちょっと待っててくれない。誰かがまたこの中に入ってきたみたい、ちょっと見てくるわ」
「……良くあることなのか?」
「まさか。二日続けて誰かくるなんて、もう何年もないことよ。いったい誰かしら」
そう言って、少女は部屋を出て行ってしまった。
フゥ……
静寂の訪れた部屋で、残った俺は溜まっていた息を吹くように吐きだした。
すると、それまで張っていた何かがスゥ…と肩から落ちるような錯覚すら覚える。
―――後は、彼女が帰ってくるのを待って、ひたすら説得してみるだけだな。
俺の目的、世界の遺跡を巡って探し求めた俺の望みをかなえる者。
彼女ならそれが出来るかもしれない。
「どうやら信頼は得られたみたいだし、これで俺の願いもかなうかも………」
軽い疲労感を感じる身体を、椅子の背もたれに預ける。
するとホッとしたせいか、あまり間をおかずに少しまどろんできた。
「少し、寝てもいいかな……」
あの娘が戻ってきたら、起こしてくれるだろうし。
ほんの少し、ほんの少しだけ…な……ら………
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―――自分自身への言い訳も終わらないうちに、俺の意識はまどろみの底へと沈んでいた。
目が覚めたときにどんなことが起きているかなんて、まったく想像もしないで………
..........to be continued...........
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THE REAL WORLD Second Season
「麦藁帽子の下で……」 第十章 ☆ 細い絆
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